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東京家庭裁判所 昭和41年(家)3518号 審判 1966年6月07日

本籍ならびに住所 韓国慶尚南道 居所 東京都

申立人 山田ミツエこと山田三枝(仮名)

本籍ならびに住所 申立人と同じ 居所 申立人と同じ

事件本人 山田利一こと季利一(仮名) 外二名

主文

事件本人等の後見人として申立人を選任する。

理由

申立人は主文同旨の審判を求めた。

よつて審判するに、調査の結果によれば、申立人は明治四四年三月八日亡山田一郎、亡ユキ間の長女として福岡県において出生、助産婦の免許取得後同県で病院勤務をするうち、会社員だつた曽正丁(現国籍韓国)と知合い、昭和一七年に同棲、昭和一九年に韓国に渡り、昭和二七年四月三日婚姻届出をし、その間に長女美佐(昭和二〇年二月七日生)長男利一(昭和二二年四月二三日生)、二女美純(昭和二五年六月四日生)、三女美紀(昭和二八年一二月二五日生)が生れた。夫は釜山市において公務員、洋服商を経て現在は縫製加工場を経営しているが、数年前から一家全員が帰日を希望するようになつたところ、夫と、成年者である長女美佐は渡日を許されず、また申立人も韓国人と婚姻中は帰国を許されないため、便宜的に昭和三九年一二月一〇日夫と協議離婚をする旨申告し、右申告は翌四〇年七月一五日釜山地方法院馬山支院で許可されたので、直ちに渡日の手続をして、同年一〇月一日未成年者である事件本人等三名を連れて日本に上陸した。申立人は現在肩書居所の近くの病院に助産婦として勤め、また事件本人利一は現在徒食中であるが、将来は定時制高校に進学の予定であり、美純は現在中学二年、美紀は小学校五年に夫々在学中であつて、いずれも申立人と同居している。なお、申立人と事件本人等はいずれも帰化申請の手続中であり、本件申立の直接動機も、一五歳未満である末子美紀の帰化申請の手続を行なうためであることが認められる。

右認定の事実によれば、事件本人等はいずれも韓国人であるから、その親権者は法例第二〇条により父の本国法である韓国民法によつて定めるべきところ、同法第九〇九条によればその家にある父、すなわち前記曽正丁が親権者となるわけであるが、同人は現在釜山市について現実に親権を行使することができない事情にあるので、法例第二三条第一項および韓国民法第九二八条により、事件本人等についてはいずれも後見開始の原因あるものといわなければならない。

ところで、韓国民法においては、第九三一条に遺言による指定後見人の規定をおき、第九三二条に法定後見人の規定をおき、第九三六条に法院による選任後見人の規定をおいているのであるが、本件の場合には、親権者である父がまだ生存しているのであるから、第九三一条は適用の余地がなく、したがつて問題は、事件本人等の直系血族である申立人が第九三二条に定める法定後見人に該当するかどうかということになるところ、同条には、「前条の規定による後見人の指定がないときは、未成年者の配偶者、直系血族、三親等以内の傍系血族、戸主の順位で後見人になるる。」とあり、したがつてこれを文言どおり読めば、親権者が死亡してかつ遺言による指定後見人がない場合には右に掲げる者が法定後見人になるということになるのであつて、換言すれば、右民法第九三二条は前条第九三一条をうけて親権者が死亡した場合の規定であり、本件のごとく親権者が生存していてしかも外国にいるため現実に法律行為の代理権および財産管理権を行使することができないような場合には、右第九三二条の法定後見人に関する規定の適用はなく、したがつてその場合には改めて司法機関による後見人の選任を求むべきものと解する。そしてまたこのように解した方が後見人に適任者を得やすく、したがつて未成年者の保護に適合するばかりでなく、未成年者に代つて各種の法律行為をする場合にも、後見人たることの証明を容易にするという点でより実際的であり、更に、本件のように帰化の許可申請をする場合には、ここで法定後見人説に立つて本件申立を却下したとしても、帰化が許可された場合には再び日本の法律にしたがつて後見人選任の申立をしなければならないのであるから(親権者は依然として父であるため)、手続の重復を避けるためにも、右のごとく解した方が好都合であろう。

ところで、右のごとく解すべきものとすれば、事件本人等はいずれも日本に居所を有し、かつその本国法によれば後見開始の原因があり、しかも後見の事務を行う者がないときにあたるから、本件は、法例第二三条第二項により、日本の法律によるべきこととなる。そこで日本国民法第八三八条によれば、本件のごとき場合には後見開始の原因あること明らかであり、かつ、前記認定事実によれば、申立人を後見人に選任するのが適当であるから、同法第八四一条を適用して主文のとおり審判する。

(家事審判官 日野原昌)

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